Raad v Nominal Defendant [2026] NSWPIC 173:相手車両を特定できなくても、調査の中身が整っていれば請求は残る
この判断が大事なのは、「見つからなかった」という結果より、「どこまで現実的な調査をして、どう記録したか」が中心だと示した点です。

Herman Chan(Stephen Young Lawyers)による一般情報です。公開日:2026年4月10日、更新日:2026年6月2日。
法的助言ではありません。保険会社から「相手車両を探す努力が足りない」と言われている案件で特に参考になります。
NSWの相手車両不明CTP請求への直接回答
このケースの要点は明快です。NSWの相手車両不明事故では、完璧な結果までは求められていません。早く動き、現実的な手掛かりを追い、調査経過を日付付きで残していれば、車両を特定できなくてもNominal Defendantへの請求が認められる余地があります。
Raad判決を実際の行動に変える手順
相手車両がまだ特定できない場合、長い説明よりも、日付入りの調査表が重要になります。誰に、何を、いつ確認したのか、結果は何だったのか、なぜなお特定できないのかを第三者が追える形にしてください。
- 事故直後に警察届出、初診、現場写真、車両特徴を固定します。
- 目撃者、近隣店舗、住宅、CCTV、ドライブレコーダー、公共交通の手掛かりを確認します。
- 各調査ごとに日付、相手、方法、結果、取得できなかった理由を記録します。
- 内部レビューやPIC段階では、そのログを時系列で提出します。
何が起きたか
申立人は、加害車両が特定できないため、政府補償制度(Nominal Defendant)を通じて法定給付を請求しました。争点は第2.30条の「相当な調査・探索」を満たしたかどうかでした。
一部の調査着手が遅れた点は争われましたが、それでもPICは必要な水準の調査が行われたと認定しました。
このケースが役立つ人
- ひき逃げや相手車両不明事故の請求者
- 保険会社から「探索不足」と言われている人
- ナンバー不明、目撃者情報不足、CCTVが限られる案件
- 遅れの有無ばかり指摘され、実際の調査内容が軽く扱われている争い
PICが見たポイント
- 第2.30条の要件を、実際の事故状況の中で評価したこと
- 調査内容が具体的で、後付けではなく、記録で裏づけられているか
- 遅れが信頼性をどこまで傷つけるかを個別に見たこと
- それでもなお車両特定ができなかったかどうか
実務で残したい証拠
- 警察のイベント番号とその後の連絡記録
- 現場写真、道路状況、接触位置、破片などの記録
- 日付入りの調査タイムライン
- 目撃者、近隣住民、店舗などへの照会記録
- 店舗、住宅、公共交通、自治体などへのCCTV確認記録
- 保険会社とのメールや書面のやり取り
- 医療証明書や治療記録など、事故後の症状とCTP請求をつなぐ資料
PIC(Personal Injury Commission)や保険会社へ提出する資料は、時系列で読める形にまとめると有効です。どの日に、誰へ、何を確認し、どんな結果だったかを示すことで、単なる記憶ではなく検証可能な調査になります。
避けたい失敗
- 調査開始を後回しにすること
- 記憶頼みで、日付付きの調査ログを残さないこと
- 「探しました」と言うだけで具体的な裏づけを出せないこと
- ナンバー不明なら請求できないと思い込むこと
due inquiry and search を時系列にする方法
Raad を実務で使うなら、中心資料は「長い感想文」ではなく、調査の時系列です。事故日から保険会社の決定日までを一枚に並べ、各行に日付、確認先、方法、結果、残った不明点を書きます。これにより、PICや保険会社は「本当に探したのか」「探せる範囲は現実的だったのか」「遅れで証拠が失われたのか」を検証できます。
- 事故当日:警察届出、救急・GP受診、現場写真、道路名、進行方向、時間帯、車両色や形の記憶を固定します。
- 数日以内:近隣店舗、住宅、サービスステーション、バス会社、タクシー・ライドシェア、自治体CCTVなど、現実的な照会先を洗い出します。
- 各照会後:取得できた資料だけでなく、保存期間切れ、担当者不明、映像なし、視野外など取得不能の理由も記録します。
- 保険会社対応:口頭説明で終わらせず、メールや書面で「何を確認済みか」「次に何を確認するか」を残します。
この整理は、相手車両不明事故の請求、ひき逃げ請求、Nominal Defendant ルート比較のどれを読む場合でも土台になります。
保険会社がよく争う点
相手車両不明のCTP請求では、保険会社は「車両が見つからない」こと自体より、探し方の信頼性を争うことが多いです。Raad は、完璧な調査結果を要求する判断ではありませんが、曖昧な説明をそのまま救済する判断でもありません。
- 遅れ:CCTVや目撃者記憶は早く失われるため、遅れがある場合は、なぜ遅れたのか、遅れても何が確認できたのかを説明します。
- 調査先の不足:警察だけ、または保険会社だけに任せたように見えると弱くなります。自分または代理人が確認した先を明示します。
- 記録の薄さ:電話した、聞いた、探したという記憶だけでは足りません。電話履歴、メール、スクリーンショット、写真、メモを残します。
- 事故状況の曖昧さ:場所、車線、進行方向、衝突位置、道路照明、天候、相手車両の特徴を整理し、探索範囲が合理的だったことを示します。
PICや内部レビューに向けた提出パック
不利な決定が出た場合、次に必要なのは「保険会社は間違っている」という一文ではありません。決定理由を分解し、それぞれに対応する証拠を付けることです。特に Nominal Defendant ルートでは、医学資料だけでは due inquiry and search の争点を解決できません。
- 保険会社の決定書を読み、争点が due inquiry、事故発生、過失、治療、capacity、threshold injury のどれなのか分けます。
- due inquiry については、時系列表、警察資料、CCTV照会、目撃者確認、現場写真を一つの束にします。
- 遅れがある場合は、体調、入院、言語、事故後の混乱、警察・保険会社からの案内など、実際の理由を控えめに説明します。
- 医学資料は別束にし、事故後症状、治療、就労能力、certificate of fitness と関連づけます。
- 日本語で説明する必要がある場合でも、提出先が英語で読む前提を忘れず、固有名詞、日付、場所、照会先名は一貫させます。
次の手続は、内部レビュー、Personal Injury Commission、メリットレビューと医療評価の違いも確認してから整理してください。
見つからなかった手掛かりと遅れの説明
相手車両不明事故では、成功した調査だけでなく、失敗した調査も重要です。CCTVが保存期間切れだった、店舗が映像を持っていなかった、警察が車両を特定できなかった、目撃者が十分な情報を持っていなかった、という結果も、日付付きで残せば「現実的な探索をした」ことの一部になります。
遅れがある場合は、隠したり大げさに正当化したりせず、なぜその時点まで確認できなかったのかを具体的に書きます。例えば、入院、痛み、言語の問題、事故後の混乱、警察からの案内待ち、保険会社への初回連絡の時期などです。重要なのは、遅れをゼロに見せることではなく、遅れがあっても残った調査が合理的で、後から作った説明ではないと示すことです。
- CCTVが取得できなかった場合は、照会日、照会先、保存期間、担当者名または返答内容を残します。
- 目撃者が見つからなかった場合は、どこで、どの範囲で、どの方法で探したかを残します。
- 警察の情報が限られていた場合は、イベント番号、連絡日、返答内容を保存します。
- 保険会社に追加資料を求められた場合は、期限、提出内容、未提出の理由を整理します。
申立人向けの実務的メモ
こうした案件では、抽象的な主張より、調査の時系列が強いです。何を、いつ、どこに、どんな結果で確認したのかを第三者が追える形にしてください。
「努力した」と言うだけでは足りません。努力の中身を見せることが重要です。特に、何も見つからなかった照会先も消さずに残すことで、探索が現実的であったことを説明しやすくなります。
よくある質問
- Raad v Nominal Defendant [2026] NSWPIC 173 の結論は?
- PICは、加害車両が特定できなくても、申立人がMAIA 2017第2.30条の「相当な調査・探索」要件を満たしたと判断しました。
- ひき逃げ・相手不明事故の請求で何が重要ですか?
- 「車両を特定できたか」だけではなく、「実際にどの調査をいつ行い、どう記録したか」が勝敗を左右します。
- 調査の遅れは問題になりませんか?
- 問題になります。遅れによって証拠の信頼性が落ちたり、後から作った説明に見えたりすると不利です。
- 最低限残すべき資料は?
- 警察届出情報、現場写真、時刻・場所メモ、目撃者探索記録、周辺CCTV照会、保険会社とのやり取り、日付入り調査ログです。
- CCTVがもう消えていた場合は終わりですか?
- 必ずしも終わりではありません。ただし、いつ、どこへ、誰に照会し、なぜ取得できなかったかを記録する必要があります。取得不能だった事実自体も、早く動いたことを示す資料になります。
- PICに出す資料は長い陳述書だけで足りますか?
- 通常は足りません。短い陳述書に加えて、日付順の調査表、警察・CCTV・目撃者・保険会社との連絡記録を添える方が、due inquiry and searchを検証しやすくなります。
判決ソースと制度背景
全文:Raad v Nominal Defendant by its agent Allianz Australia Insurance Limited [2026] NSWPIC 173
制度全体は、SIRAのmotor accidents injury claims情報とMotor Accident Guidelinesも確認してください。Raad は制度一般の説明ではなく、相手車両不明事故でdue inquiry and searchが事実上どう評価されたかを示すケースノートとして読むのが安全です。